公聴会

昨日、昆虫学教室の金尾さんの博士論文公聴会に参加した。


公聴会では、アジアにおける好白蟻性ハネカクシについて、総合緒言、分類、系統、生態の4つの柱を軸に話が進められた。

分類・系統のパートでは、膨大な未記載種の整理、形態・分子に基づく系統樹の構築を通じて、特殊形態により混乱していた好白蟻性種の分類体系についての大幅な変更が示唆された。

生態のパートでは、化学擬態、寄主特異性の2つの側面について紹介された。

化学擬態では、好白蟻性種に見られる、「腹部肥大型 physogastry」と防御形態と考えられる「カブトガニ型」の2つの形態形質がどのような進化的背景を持ちどのような機能(適応)上の差異を生じているのかという問題について、系統、野外での行動観察に加え、寄主シロアリや各形態形質ごとの体表化学成分についての比較に基づく議論がなされた。その上で、それぞれの形態における、戦略の違いについて示唆された。

寄主特異性では、先の化学擬態の研究結果を踏まえ、腹部肥大型の好白蟻性ハネカクシが寄主特異性を有するのかという問題について議論がなされた。具体的には、同種の別コロニー由来のハネカクシについて、採集されたコロニーとは別のコロニーに対し、どの程度受け入れられるかということである。この問題は、好白蟻性種のコロニーへの侵入方法についても、示唆を与えた。


とにかく膨大な仕事量で、それでいてとてもわかり易く発表されていたため、詳しくない私でも聞いていてとても面白かった。
分類・系統・野外観察に留まらず、そこから得た仮説を、実際に化学成分の分析・行動実験などで検証されていた事も、ますますこの研究を面白くしていたのだと思う。

私はハネカクシに明るくないため、なかでも生態パートが特に面白かった。
コガネムシ上科にも、例えばCorythoderini, Termitoderini, Termitotrogini, Stereomeriniといった、族レベルで好白蟻性と考えられている分類群が存在する。この手の好白蟻性マグソコガネには、Supertermitoderusなどの腹部肥大型、多くのTermitotroxなどの防御型の他にも、Termitopisthes, Chaetopisthesと言った、化学物質を分泌すると考えられている毛束を有する形質も見られる。更には、その組み合わせ版も存在したりしているので、その形質と、Wasmann(1984)に代表されるような、好白蟻性の生活様式と合わせていつか議論してみたい。
どのような形質を採択するかという問題も生じてくると思うけど。

関連した研究として、Vårdal, Forshage 2010( A new genus and species and a revised phylogeny of Stereomerini (Coleoptera, Scarabaeidae, Aphodiinae), with notes on assumedly termitophilic aphodiines)などがある。


ほとんど人目につかない、未知のシロアリと寄生者が織りなす相互作用、想像するだけでも楽しい。将来的に、解明したいと思う面白い分野だ。昨日の公聴会で、より一層その面白さを実感できた。


長くなってしまいましたが、金尾さんと指導にあたった丸山先生をはじめとする皆さま、お疲れ様でした。